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AEDで一命をとりとめた男性の体験談

AEDで一命をとりとめたAさんのお話

AEDで一命をとりとめたAさんの画像
※今回インタビューに応えてくれたAさん

「実際にAED(自動体外式除細動器)を使う機会なんてそうそうないだろう」と考えている人は多いでしょう。しかし、いつ何時身近な人にAEDが必要な事態が起こるかわかりません。

その重要性を知るべく、『AED導入丸わかりガイド』編集部は、45歳の時に会社で倒れてAEDで一命をとりとめたという男性(Aさん)にインタビューを実施。当時のお話をうかがいました。AEDを実際に使われる立場になったことで、AED導入に対する考え方や意識に大きな変化があったそうです。

倒れた当時のAさんのプロフィール

倒れる前のAEDに対する考え方

倒れたのは2009年の7月です。実際に自分が倒れるまで、私はAEDの実用性をまるで理解していませんでした。当時は総務部の役職にあり、会社としてAED講習会の受付窓口になっていたのですが、講習会参加に対して消極的でしたね。「会社の義務として部下を参加させなければ」という感覚しかなく、まさか自分が使われる側になるとも思っていませんでした。参加枠が各会社から2名というのもあって、自分が講習会に参加することはまったく考えていなかったです。

当時AEDに関して把握していた情報と言えば、ビル内のどこにあるか程度です。

見落とされた前兆

AEDで一命をとりとめたAさんの画像
※今回インタビューに応えてくれたAさん

倒れる前に不調を感じ、総合病院で検査を受けたことがあります。倒れる半年ぐらい前で、そのときの診断は「パニック障害」でした。今考えると心室細動が起きていない状態で、めまいや吐き気だけといったよくある症状だったし、倒れたわけでもなかったのでそう診断されたのでしょう。ストレスの軽減やたばこの本数を減らすといったアドバイスのみで、処方はとくにありませんでした。パニック障害についてネットで調べましたが、自分にあてはまるのかどうかわからないまま。医者に言われたのでひとまず静観で良いだろうと思っていたんです。その後倒れるまでの間に2~3回気分が悪くなることがあって、そのたび休めば回復。なので自分でも心臓が危険信号を発しているなんて思いもしませんでした。きっと家族もそうだったと思います。

落ちていく意識

当日は普段通りに起きて出社しました。その日は朝から会議があったので、普段よりは多少緊張していたかもしれません。会議が始まってしばらくしたら気分が悪くなってきたので、「いつもみたいに休めばよくなる」と思い、一時中座して自席で休憩していました。スタッフの勧めもあって、しばらく休んだら病院に行くつもりでしたが気分の悪さは治まらず。「自力では行けないから救急車を呼んでほしい」と部下に依頼しました。救急車のサイレンの音が聞こえてきたので、「みんなに心配をかけまい」と部下に支えられながらも部屋から歩いて出ました。ここまではしっかり覚えているのですが、その後視界が一気に暗くなったんです。部下は「崩れ落ちるようにとはこのことか…と思うくらい急に倒れた」と言っていました。

AEDを使用した当時の状況

AEDで一命をとりとめたAさんの画像
※今回インタビューに応えてくれたAさん

倒れたときのことはよく覚えていません。ただ、意識が戻った後に当時立ち会ってくれたスタッフから『救急車にAEDはなかった』と聞いて衝撃を受けました。たまたまなのか、当時はそれが当たり前だったのかわかりません。

当時働いていた会社はビルの上層階にあって、私はそこで倒れました。救急車が到着した後、周りのスタッフがエレベーターで私を運んでくれて、エレベーターを降りようとしたときに心室細動(※1)が起こったそうです。救急車のほうが近いのに、救急隊員からAEDを取りに戻るよう指示されたらしいので、本当に搭載されていなかったんでしょうね。その場にたまたまAEDの講習会に参加した経験のあるスタッフがいて、ビルの2階にAEDがあるのを把握していたのが不幸中の幸いでした。もし講習会経験のあるスタッフがその場に居なかったらとおもうと…おそろしいです。

※1)心臓が痙攣して体内に血液を送れなくなる状態。心肺停止前に起こる

周りは誰もAEDの必要性に気づけなかった

よくテレビで観る心臓発作の場面では、本人も周囲の人も危ない状況をはっきり自覚しているじゃないですか?しかし心室細動の症状は、今でも「ただの不調だ」と思えるほど軽いものでした。その気分の悪さからいきなり、全身麻酔を打たれたかのように意識が飛ぶんです。実際、私が倒れたときはすでに救急車を呼んでいたので、AEDの使用判断は救急隊員がしてくれました。一般人は誰一人として、AEDが必要な状態だとはわからなかったんです。

AEDで一命をとりとめた後の考え方

昔は自分の健康なんてどうでもいいと思っていたけれど、実際にAEDで命拾いをするという体験をしてから考えが変わりました。そもそも、AEDがこんなに有益なものだとは思っていなかったので。今はぜひいろいろな場所に設置してもらって、みんなに使えるようにしてほしいと思っています。

自分が倒れるという経験がなければ、きっと社員を講習会に行かせることすら消極的なままだったと思います。今は講習会がいかに大切かわかったので、毎年定員の2名を必ず参加させています。

倒れた後の日常生活の変化

いろいろな制限が増えました。まず、飛行機に乗れないので出張に行けず仕事に支障があります。喫煙はもちろんできないですし、急に走りだしたり階段を上り下りしたりなど、心臓に急激な負担がかかる行動はすべてアウトなので慎重に行動するようになりました。

『AED導入丸わかりガイド』編集部より

Aさんへのインタビューを通してわかったのは「AEDが必要な状態にあっても、気付ける人が少ない」という事実。心筋梗塞や狭心症であれば強い胸痛を伴うので、本人が自覚してすぐに病院に行くことが可能です。しかし、AEDが有効な心室細動はそれとわかる痛みではなく、めまいや吐き気といった「我慢できる不快症状」が主なサイン。なのでそばにいる人はもちろん、本人ですらその危険性がわからないのです。

「定期的に健康診断を実施しているから大丈夫」「元気な社員ばかりだし、AEDなんて必要はないだろう」と思っている方も油断はできません。なにせ、Aさんも「よくある体調不良」で倒れたのですから。

倒れたあとの処置が遅くなり心静止になったら、もうAEDは使えません。「意識を失って間もなく、まだ心静止までいたっていない」その短時間が救命の分岐点。心室細動の危険性を知り、AEDの使用について理解を深めることが命を救うきっかけになるのです。

AEDを導入したビル会社の管理人のお話

Aさんに使用されたAEDは、Aさんの勤め先が導入したものではなく、Aさんの勤める会社が入居していた複合ビルの運営会社(以下B社)が導入したものです。

B社の管理人にアポを取り、AさんにAEDを使用した当時のお話、企業としてAEDを導入した意義などをおうかがいました。

AED導入のきっかけ

B社は2006年からビル内にAEDを設置しました。きっかけは自治体が開催した健康フォーラムに参加したこと。当時は心肺蘇生法…いわゆる心臓マッサージの救急対応が主流で、AEDの存在をまったく知りませんでした。健康フォーラムでAEDの紹介があり、「こんな素晴らしい機械があるんだ!」と感動した記憶があります。早々に稟議をはかり、導入にこぎつけました。

AEDで一命をとりとめたAさんについて

Aさんが倒れたのは2009年、ビルにAEDを設置して3年目に入ったところでした。導入してわずか2~3年で実際に使用する日が来るとは想像もしていませんでしたね。自社が管理しているビルに入居している人、利用される人に何かあってはいけないという思いから導入に踏み切ったので、実際に助かった命があることに喜びを感じています。

事件当時のAED事情

当時はAED設置に向けての取り組みが活発化している時期でした。周囲の学校や商業施設にも徐々にAEDが導入されていたのですが、正直なところそれだけでは足りないと感じていました。実際、AEDが必要になる場所やタイミングは誰にもわかりませんし、一刻を争うケースがほとんどです。人が倒れてから大きな施設に取りに行く余裕なんてありません。当時も消防署から「付近で事故が発生したときは貸し出せる体制を整えてほしい」と依頼があり、導入当初から現在まで結構な回数で貸し出しています。

AED導入コストの変化について

B社が導入しているAED
※B社が導入しているAED

AEDの機械は確実に進化していて、導入しやすい環境が整ってきていると思います。

昔はAED設置のイニシャルコストが高額でしたが、人の命には代えられないという思いで導入しました。しかも、1度使用したら買い替える必要があり、会社にとっては痛いところでした。

しかし、数年前から状況は変わりました。レンタルやリースという選択肢が増えてイニシャルコストはリーズナブルに。また、買い替えではなく消耗品の交換だけで済むようになったため、ランニングコストも抑えられるようになりました。

当社は年間契約で月1度のメンテナンスをお願いし、常に万全の状態で使えるよう配慮しています。いざという時に動作不良となっては困るので、安心を買うために年間契約にしました。経費的には導入当初よりも安価になってきているし、人の命にかかわることなので高いとは思いません。使わないこと、健康であることがベストですが、AEDを設置しておくことは社会貢献のひとつにもなるんです。

AEDを導入する際に気をつけたこと

AEDを設置してもいざという時に使えなければ意味がないので、まず入居者への周知活動を大切にしています。

現在は年に2度のペースで近くの消防署から指導員を招き、入居者を対象にした実習会を開催して参加を義務化しています。講習的で指導するのは初歩的なこと…例えば設置場所を見に行くことやBOXの開け方、実際の使用法などです。2017年には講習会参加者が100名を超えたということで消防署から表彰されました。現在も引き続き啓もう活動を行う励みになっています。

講習会終了後は、参加者へ社内での周知をお願いして、参加されていない方にもAEDについて知ってもらえるよう努めています。

また、相当な理由がない限り、AEDを設置した場所を変えないようにしています。緊急事態が起きた際、取りに行くべき場所をすぐ思い出せるようにするためです。当社は導入当初から利用者の多いホール階と総合案内に設置しています。緊急事態が発生したときは大体総合案内に連絡が来るので、電話を受けてスタッフがすぐに動けるように機動性を重視して総合案内にAEDを設置しました。各階に置いてもいいかもしれませんが、現在のところは問題なく対応できていますね。

AEDの認知度・使用頻度について

講習会の意義が浸透しているおかげか、AEDがすぐ必要になるかもしれないと考える方が増えてきたように感じます。「実際に使用しませんでしたが、念のため持ちだしました」と報告してくださる企業が多く、安心材料のひとつになっていると考えています。

幸いなことに、入居者の中で実際にAEDを使用したのはAさんだけ。あとは貸し出しの際に数回使用されたことがある程度です。持ち出される頻度が以前よりも多くなっていることから、AEDの認知度は高まっていると感じます。

AEDの盗難について

当社のAEDは取り外すと大きなサイレンがなる仕組みになっています。緊急事態が発生したことがすぐにわかるようにという意味ですが、この音のおかげか盗難にあったことは一度もありません。使用する際に持ちだしたあとはきちんと戻してくださっていて、破損報告もないです。人命救助という特別な役目をもった機械なので、みなさん大事に扱ってくださっていますよ。

まだAEDを導入していない企業・団体へのアドバイス

Aさんの救命において、設置していたAEDが役に立ったのはとても光栄でした。実際に使用したのは救急隊員の方でしたが、設置場所へ案内したのはAさんの部下の方だったと聞き、講習会や周知活動が大切だと改めて実感したのを覚えています。AEDは購入して設置するだけでは意味がありません。館内での告知や定期的な講習会の実施こそが大事です。AEDの使い方を知っている人が多くなれば、他の場所でも対応できる人が増えます。AEDの設置は義務づけられてはいませんが、大人数が集まる場所に置くだけでも社会貢献になるのです。まだ導入されていない企業・団体には、ぜひ積極的に導入していただきたいですね。

『AED導入丸わかりガイド』編集部より

AEDは、2004年7月に厚生労働省より非医療従事による使用が認可され(※1)、空港や駅、官公庁、学校などの公共施設への設置が推進されました。その後、AEDの販売実数は38万台を超え(2011年時点の情報)、人口あたりの設置数としてはAED先進国に引けを取らないレベルに成長しています。国がAEDの使用方法や心肺蘇生法を学ぶ機会を増やすよう推奨したことで、自治体や企業ベースの講習会の開催も増えました。

AEDを導入したビル会社の管理人へのインタビューからわかるように、AEDは年々進化しています。レンタルやリース商材も増え、導入のハードルは確実に下がっています。ただし、「導入すれば安全」というわけではなく、告知活動をはじめ、さまざまな企業努力が必要だということを忘れてはいけません。AED導入の本来の目的を忘れないよう、導入後は講習会の開催や告知活動を行うことをおすすめいたします。

※1)参考 厚生労働省医政局(https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10802000-Iseikyoku-Shidouka/0000111659.pdf)

AEDを使う場面に遭遇したCさんのお話

いくら講習会に参加したことがあっても、実際に人が倒れたときにAEDを使いこなせるのか?と心配になる人は多いでしょう。講習会の参加経験があり、AEDを使う場面にも遭遇したことがあるCさんにお話をうかがいました。

講習会に参加して感じたこと

人命救助講習会に参加したことがあります。そのときは指導員がAEDを使っているのを横から見るだけで、実際には触りませんでした。音声でアナウンスしてくれるんだ~と感心しきり。AEDは誰でも使えるように相当工夫されているんだなと思いました。心臓マッサージは人形相手に実習。どちらかというとAEDよりもマッサージを覚えるのが大変でした。

AEDを使う場面に遭遇した際の誤算

Cさんが見つけられなかったAEDの画像
※Cさんが見つけられなかったAED
近くの銀行ATM内にあったが、
自動ドアの装飾で気づけなかったそう

帰宅途中に繁華街を歩いていたら、目の前に倒れている男性がいてそばに数名の人だかりができていました。「大丈夫ですか?」と声を掛けても反応がなかったのですが、はじめは「繁華街だし酔っぱらっているのかな?」くらいに軽くとらえていました。ただ、何度声をかけても動かないので段々と心配になり、救急車を呼ぶことに。そのとき、近くにいた女性から「あそこにAEDがあるから取ってきて!」と言われて、私とあと1人でAEDを取りに行くことになったんです。

ところが…AEDを使いこなすどころか、見つけることができなかったんです。結局AEDを使うことなく、男性は救急車で運ばれていきました。AEDの場所に気づけなかった自分が残念で、付近をあらためて見直したんですがやっぱりわからず。翌日明るい時間帯にもう一度その場所に行ってみたら、そのときは見つけることができました。自動ドアの向こう側にあり、装飾のシールに紛れていたため、混乱していた当時は気づけなかったんです。「実際にAEDを使うかもしれない」という場面に遭遇するとこんなにも焦るのかと自分でも驚きました。

『AED導入丸わかりガイド』編集部より

Cさんへのインタビューを通して、「緊急事態に遭遇したときこそ落ち着いて行動できるかどうかが大事」だと気付かされました。また、AEDを導入する企業は設置場所に配慮する必要がありそうです。総合案内にAEDを設置しているB社のように、すぐに取りに行けるところ、誰でも見つけられる目立つ場所に設置する工夫しましょう。

Cさんのほかにも、AED体験会に参加したことがある方の体験談や実際にAEDを現場で使用した人の体験談を掲載しているので、ぜひチェックしてみてください。

AEDの使用速度が生存率を左右する

Aさんのように急に倒れた人の命を救えるかどうかは、心室細動が起きてからいかに早くAEDを使用できるかにかかっています。生存率は、心室細動が起きてから1分経過するごとに10%ずつ下がるというデータがあるため、大げさではありません。

もしも講習会に参加したスタッフさんが近くにいなかったら。救急車に乗る前ではなく、AEDがない救急車の中で心室細動が起こっていたら…。当編集部のスタッフ一同も、インタビューを通してAED導入や講習会の大切さに改めて気づかされました。

皆さんも明日は我が身ということをお忘れなく。この記事がAEDの大切さを意識するきっかけになれば幸いです。

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